レス
The Dress(2007)

Rain drop from ...


 古びた床から細かな根が、屍のような足に絡み付きレースになる。肉片がてんとう虫のブローチになり、足下を這い上がる。画面は少しずつ鼓動をはじめる。ドローイングのバッタが立体になり、布に描かれた線がリボンになり、生き物の様に縫い進む。あからさまに女性器を模した生々しい肉の花は、音楽に合わせ呼吸をしている。装飾品の固いコインから乾いた虫の羽が伸びる。カメラは執拗にディテールを追い、全体像は見えないが、すぐにそれらは女性を包むドレスだと認識される。カメラワークは、腰、そして胸元へと移っていく。その度にいろいろな装飾物が生まれては変形して「ドレス」を形作る。

 オブジェのマチエールの積み重ねと、全体が見渡せないミクロな視線が、クエイ兄弟のフィルムをはじめ連想させるが、しかしクエイのような夢心地の浮遊感はなく、その視線は、アニメーションならではの幻想が入り乱れてはいるものの、強い感情のダイレクトな叫びに同調して地に足がついている。またクエイ的な神秘的なメタファーや象徴ではない、明確なイメージの積み重ねで映画的語りの独自性を獲得している。ヴァレリアン・ボロヴツィク、ヤン・シュヴァンクマイエル、ブラザース・クエイの系譜に繋がる「オブジェ」の感性が全面にでた立体アニメーションだが、その視線は明らかに女性のもつリアルな現実認識と多少の狂気に基づいている。

 エストニアでは数少ない女性監督によって制作された『ドレス』は、人体を喚起する記憶と痕跡でいっぱいの美的なオブジェの豊かさを通してまず感銘を与えてくれる。作者のイレナ・ガリンは、アニメーションが詩でありうる事を理解し、草や土、昆虫、布など、ナチュラルな素材の変質、変化、生成を通して、「女性らしさ」の本質に関連する隠喩的な意味を作成する。

 音楽の急激な高鳴りと共に、ドレスの一部をミンチの機械にかけ、そこから涙の様な真珠がポタ、ポタと産み落とされる。真珠から布でできた蝶が次々に生まれる。

 カメラはついに、胸元の大きな宝石まで達する。とその宝石にはギロチンが映っている。女性の頭部は最後まではっきり見えない。突然、激しいエレキギターのビートとともにギロチンとフラッシュバックして写される包丁。その包丁が切り刻んでいるのは何だろう?ニンジンが写ってはいるが、その激しい感情が切り刻んでいる物は?もしくは切り刻まれるモノは?

 ゴシックでグロテスクなドレスに身をつつみ、美しさの鎧で身を固めた女性。締め付けられる感情はヒステリックに爆発する。このアニメーションに救いは無い。女性の身を守るのは、フェミニンな女性自身の化身たちだけで、我々男性はこのフィルムを前にして頭を垂れるしか無い。(山村浩二


 

作品DATA
Kleit (2007/ 6'30")
監督:イレナ・ガリン、マリリース・バッソブスカヤ(Jelena Girlin, Mari-Liis Bassovskaja)

関連サイト:
監督フィルモグラフィー:nukufilm>Filmmaker>Jelena Girlin
作品:nukufilm>KLEIT

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