トン
Варежка(1967)



 女の子は窓の外を覗き、雪の中を遊び回る犬とその飼い主たちの姿を見る。女の子の心が動きだし、犬をもらいにいく。だが、吠えたりおしっこをしたりする犬は読書が好きなママの世界を壊してしまうので、ママは怒りだして犬を返してしまう。二人が望むものの間には差があるのだ。
 現実がうまくいかないとき、子どもは空想する。女の子は、犬と犬を愛する人たちがいる外へと出ていき、自分のミトンの手袋を犬だと空想する。決して動かないはずの手袋が、犬として動きはじめる。そこから先に展開する女の子の空想の世界は、子どもにありがちなことに現実を侵食する。本物の犬を追い払ったり、猫を追い回したり、犬たちのレースに参加できてしまったりしてなかなかややこしい。動物や、犬を愛する人たちも皆、ミトンの手袋が犬であることを疑わないみたい。どうやら、家の外では、みなが同じものを見ているようでなのである。
 でも家の中は違う。ミルクをこそこそと持ち出す娘を見て、母親は怪しいと思う。予感は的中、女の子は犬にミルクをあげようとしているみたいだ。鬼の形相で隣の部屋へと駆け込む母親。でも、目撃するものは、ミトンの手袋。
 女の子は泣きそうな顔でミトンの手袋をかばおうとする。あたかも、また犬が取り上げられてしまうと思っているかのように。二人の見ているものはやはりすれ違っている。でも、その必死さは、ママの目を覚まさせる。上のお宅にお邪魔して、子犬に会ってみる。はしゃぎ回る子犬に慌てふためきながらもその子を抱いてみる。顔を舐められる。でも、おかしなことに気分が悪くない。ママの顔には微笑みが浮かぶ。今となっては、ママと女の子は同じものを見ている。子犬を抱くママの姿は、ミトンが子犬となったときの女の子の姿とまったく同じなのだ。ママの心は動き出す。女の子のなかでミトンが犬に変化したように、ママのなかで犬は愛すべき対象へと変化する。家の中ですれちがっていた二人の世界はついに合流する。家の中も、外も、みなが同じものを見るようになる。なんというハッピーエンド。(土居伸彰


作品DATA
Варежка (1967)
監督:ロマン・カチャーノフРоман Качанов
「ミトン」 [Amazon]

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『ミトン』