ーリャ・アロノワ

 広島2008の座談会で注目すべき作品として取り上げた"Mother and Music"の監督、ユーリャ・アロノワのインタビューをお届けします。エネルギッシュな彼女のキャラクター、創作に関する一途な気持ちが伝わってくるものになったと思います。特別に提供していただいた"Mother and Music"用のエスキースもあわせて、お楽しみください。(土居伸彰)

質問作成、翻訳、編集:土居伸彰


Mother and Music(2006)

――どうしてアニメーションを作りはじめたのですか? 子供の頃からアニメーションをよく観ていたのでしょうか。もしくは、映画が好きで、映画制作の一環として、アニメーションを考えているのでしょうか。

子供のときには、テレビはそんなに観ませんでした。いつも絵を描いてばかりでしたから。自分で描いたキャラクターが友達、という状況だったんです。子供の頃観たアニメーションで、一番覚えているのは、[ロマン・]カチャーノフの『ミトン』[Amazon] ですね。
[アニメーションをはじめたきっかけですが、]大学で実写映画の美術監督をやりはじめたときのことです。どんな装飾にしたいかというイメージが、それこそ無限と言っていいほどに、すごくきちんとあったんです。でも、実際に作ってみると、まったく別のものになってしまいました。作業に関われる人も資金もなく、セットも小さすぎたんです。そのとき、頭に思い浮かびました。全部、もっと小さくなってしまえばよかったのに、って!
そのあとで、実際に小さなセットの模型を作ってみて、そのなかに、初めて作ってみた犬のキャラクターを歩かせてみました。何ヶ月も学校の地下室に潜り込んでそういうことをやっているうちに、最初は仕事だったものが、だんだんと遊びへと変わっていきました。でも、そのときはそれっきりです。最初の[アニメーション]作品が完成して、それを学生映画祭に送ったのは、二年生になってからのことでした。
最近は映画に対して違った接し方をしはじめました。前よりももっと自覚的に観るようになったんです。アニメーションを成長させてくれるのに、すごく役に立っていると思います。私は映画とアニメーションを分けて考えません。スクリーンに映るものはすべて「映画」なんです!

――国立映画大学(VGIK)で学ばれていたと思いますが、学校の経験は役に立ちましたか?

映画大学では実写映画用の美術の勉強をしてたんですが、すぐに興味がなくなってしまいました。セットはすごく大きいんだけど、私はすごくちっちゃいから(笑)。だから二年生のときにアニメーション・コースに移ったんです。
でも、[アニメーション・コースのカリキュラム通りに]全部の授業をエスキースのために使いたくはなくて、とにかく撮影がしたかったんです! だからずっと撮影の訓練をしました。絵画の授業には出ないで、とにかく撮影。もちろんそれで問題も起こりました。授業には相変わらず出ないで、そのかわり、自分のスタジオを作って、コマーシャルやPVを制作しました。そういう仕事のおかげで、いろいろと設備も買えたし、アニメーションのイロハも理解できたんです。発注先の注文に応じて、いろいろなテクニックも試しました。アニメーターから監督まで、いろいろな役割もやりました。学校を出たあと、撮ってみたい4つのプロジェクトがあったんですが、まずは『エスキモー Eskimo』から始めました。
映画大学の教育についていえば、受け取ったものはすごく大きいと思います。入学したときは何もできませんでしたから。大学はすごく芸術的なところでした。センスを磨かされて、腕も上がりました。でも、実践的な側面に関しては、弱かったと思います。経験から言えば、実践に時間を割く人こそが、プロになるのだと思います。


Eskimo

――あなたは立体の人形と切り絵の両方を使います。その選択の基準は何でしょう? 私が思うに、あなたの人形作品(『エスキモー』と新作の『カミーラ Camilla』)がいくらかコミカルな感じであるのに対して、切り絵作品(『かぶと虫、小舟、アプリコット A Beetle, A Boat, An Apricot』)はノスタルジックでパーソナルな感じがします。両者の違いはどこにあるのでしょう? 新作の『カミーラ』では、立体、切り絵、そして実写も使っていますから、この区別はそれほど単純なものではないことはわかっているのですが……

作家というものは自分の道を見いだして、その道を断固として進むべきものです。作家には、自分自身の筆跡、スタイル、テクニックというものが現れてくるものなのです。私が流行りの3D[CG]作家でないことはすぐにわかりました。自分が何者であるかを知ること、それが創造に携わるための必要条件です。いばらの道を進むためには、それが必要なんです。その際に一番重要になってくるのは、誠実であることです。
今では私は何も恐れていません。感じるがままに、やりたいことをやりたいように、作ります。何かの物語に熱くなることが多いのですが、そのプロットというものが、造形的にどうすべきかというのを示してくれるものなのです。『母と音楽 Mother and Music』を人形で作るのは無理だったと思います。アニメーションのそれぞれの技法は、楽器のようなものです。チューバで霧の朝の雰囲気を伝えることはできません。私にとって、立体のアニメーションは、どちらかというとコミカルで軽い雰囲気です。複雑なプロットを語るのに向いています。切り絵の場合、重要なのは雰囲気で、プロットはたいてい、二番目、三番目になります。『カミーラ』はプロットが複雑な作品なので、シンプルで記号的な造形を選びました。だから、これからずっとこのスタイルでやっていくというわけではないんです。


Camilla

――『母と音楽』について訊かせてください。なぜマリーナ・ツヴェターエワの原作でアニメーションを作ろうと思ったのですか?

大学を修了するためには、卒業制作を作らねばなりません。テーマ自体はずいぶん前に決めていました。[ツヴェターエワの]『母と音楽』です。あの小説のなかに、私自身の幼い頃と響きあうものがあると思ったんです。[小説のマリーナのように]音楽をやれと強制されたわけじゃないんですが、小さなころから、自分で自分の行くべき道を選択する必要に迫られていました。女の子のオオカミがいるあの小さな部屋でちっちゃなツヴェターエワと一緒に過ごした時間は、私にとって、今まで過ごしたなかで、一番の秘密の時間でした! 作業はすごくゆっくりと進みました。きちんとしたエスキースを描くことが求められていたんですが、私はそれよりも、作品自体の本質に興味がありました。だから、あの気が変になりそうになるキャンバスに向かうかわりに、小さな水彩画を掛けておきました。先生たちには、絵のスタイルをどのようにするか決めるよう、言われつづけました。私の作品を弁護してくれたのはユーリー・ノルシュテインでした。私を正しい道に導いてくれましたし、何が良くて何が悪いかを示してくれました。彼とお話しすることで、いろんなことに対して目を開かされました。


Mother and Music用のエスキース

――子供の頃の話であなたが『ミトン』の名前を挙げて驚いています。なぜなら、私は今『母と音楽』についての記事を書いているのですが[注:「ASIFA Magazine #3」に掲載予定の"I Walk Alone, Holding Hands Only with My Own Fantasy: Yulia Aronova's Mother and Music"]、『ミトン』と比較しようと考えていたからです。ご存知のように、二つの作品には似たようなシークエンスがあります。つまり、子供に見えているものが、母親には見えない。『母と音楽』でのあのシーンは、『ミトン』へのオマージュなのでしょうか? 『ミトン』では最終的に親子は同じものを見ます。しかし、『母と音楽』では少女は自らの空想と歩んで終わります。『ミトン』はハッピーエンドですが、『母と音楽』はそうではありません。二つの作品の関係性について、教えていただければと思います。

『母と音楽』を制作していたとき、『ミトン』のことは考えていました。ですが、あれほどはっきりとパラレルになるとは思っていませんでした。母親の姿をどのように見せるかという問題がありました。結局、母親は顔の一部だけが画面に映って、全身像は見えません。小さな女の子の視点だからです。女の子の主観的視点は、大人よりもずっと低い。だから子供には、大人に見えないものが見える。『ミトン』も同じような解決をしていると思います。母親が形式的なキャラクターになっていて、それによって、観客は子供の視点から世界を眺めることができるようになっています。でもこんなに似ているなんて、今気付きました。たぶん、無意識のうちに影響を受けていたんだと思います。『ミトン』のテーマは私にとって身近なものですから。つまり、自分自身の世界を生きている子供という存在の不思議さです。

――あなたの幼年時代の描き方は本当に素晴らしいです。アニメーションはあのような主観的な世界を描くのに向いていると思いますが、そのことについて、あなたのご意見をお聞かせください。もしくは、あなたにとって幼年時代というテーマがどれほど重要なものなのかを教えてください。

人間にとって、子供だった時代のことを忘れないことはすごく重要だと思います。幼年時代には、すべての発見が奇跡でしたから。この感覚は、将来、どれだけの世界が拓かれていくのだろう、という考えを私たちに与えてくれます。私自身は、自分が大人になってしまったとは感じてないんです。こういう感覚について扱うアニメーションは、純粋な幼年時代の空想世界へと観客を連れ戻してくれるものだと思います。子供に戻り、7歳の目で世界を眺めることができるのです。私にとってはそれこそが、映画が観客の心に生み出しうる一番高貴なものだと思います。タイムマシーンみたいなものです。

――あなたの幼年時代の描き方は、愉快で濃密であると同時に、古き良き日からの別れの感覚を感じさせます。なぜ悲しみの感情を投入するのでしょうか?

私の作品の登場人物は不幸せで孤独なんです。作品のなかで、自分自身を発見したり、幸せになったり、自分を変化させてしまう何かを経験したりします。幼年時代について幸せに語るというのはたぶんすごく難しいんじゃないでしょうか。幼年時代のドラマツルギーというのは、それが終わってしまうところにあると思います。幼年時代からはいつか永遠に去らねばならない、だからこそ、悲しいトーンが感じられるんだと思います。登場人物は葛藤を経ないといけません。登場人物が子供だとしたら、私はその子の内的な問題に興味があるんです。(大きな世界のなかの小さな人間。)


A Beetle, A Boat, An Apricot

――『エスキモー』以来、同じスタッフと作品制作をなさっていますが、彼らについて教えてください。

『エスキモー』のときに、撮影監督の千本誠[編注:京都出身の日本人で、ロシアで撮影監督として活動している]と出会いました。彼とは人形アニメーション作品で一緒に作業しています。『エスキモー』は作曲家のレフ・スレプニョフと音響監督のニコライ・コジリョフと一緒に作った最初の作品でもあります。このグループで作業できるのは、とても幸せなことです。どの作品もオリジナルなものにすることを目指して、それぞれのテーマにあった独自のアプローチを発見しようとしています。『カミーラ』では80人のオーケストラを使って録音しました。(この予算のなかではそんなことするのは不可能なものなのですが。)音もオリジナルなものにしようとしています。一緒に作業しているとき、私たちは本物の仲間たちなんだ、と感じます。とても素晴らしいことです。

――好きなアニメーション作家、もしくは作品を教えてください。おそらくノルシュテインがリストのトップにくると思いますが……(ただし、あなたが彼の模倣をしていると言っているのではありません。あなたは彼のスタイルを吸収して、自分のものとしてしまっていると思います。)

山村浩二は大好きです。『カフカ 田舎医者』[Amazon] は日本語版でですが、20回観ました。語り手の声が音楽になっているのが素晴らしいと思います。宮崎駿の『もののけ姫』[Amazon] 、あとヒトルーク[Amazon] も好きです。昔の映画も好きですね。ヒッチコックは崇拝しています。最近、よく映画とアニメーションを比較してみています。実写映画みたいに、アニメーションでも観客と主人公を密接に一体化できればすごく面白いと思います。あとは、デューラーなどの北方ルネサンスの画家もすごく好きです。前に住んでいた家の壁には広重の「蒲原」が掛かっていました。映画だとあとはベルトリッチとウッディ・アレンが好きです。プロットがあるものをとても評価しています。映画だと、雰囲気的な作品であってもプロットがありますよね。イオセリアーニとノルシュテイン[Amazon] も好きです。文学だとヴォネガットです。

――今後の計画を教えてください。

計画は海みたいにあります。作ってみたいものがすごくいろいろあるんです。脚本だったり、絵コンテだったり、そんなかたちにしてあるものがたくさん。ロシアではどうも、アニメーションにとって良くない時代が始まってしまったみたいなのですが[編注:金融危機の影響で、ロシアの非商業的アニメーションへの支援がほぼ全額打ち切られ、ピロット・スタジオが事実上の閉鎖に追い込まれるなど、ロシアのアニメーション事情はかなり厳しいものとなっている]、そんなことでは私は止められません。今は次の作品のためのエスキースを描いています。いったん映画制作が始まってしまえば、予算がいくらとかそんなことは考えたりはしません。映画はただ生まれてくるんです。



ユーリャ・アロノワЮлия Аронова

1978年生まれ。モスクワの国立映画大学でアニメーション制作を始め、在学中に"A Beetle, A Boat, An Apricot"、"Eskimo"、"Mother and Music"の三本を監督。卒業後はフリーのアニメーターとして仕事をしつつ、アニモース・スタジオにて新作"Camilla"を完成。ノルシュテインの影響が色濃い切り絵によるノスタルジックな作品と、立体によるコミカルな作品の両方の制作に取り組んでいる、ロシア期待の若手作家の一人。

フィルモグラフィー

2004 A Beetle, A Boat, An Apricot
2004 Eskimo
2006 Mother and Music
2008 Camilla 

ユーリャ・アロノワ インタビュー