ワン・マクシーモフ

 2008年7月29日(火)に開催されるイベント「Animations' Works, Animations' Selection」にて上映される『海岸を吹く風 Wind Along the Coast』の監督、イワン・マクシーモフにインタビューを行いました。彼の独特の作風の秘密が垣間見えるお答えになっているように思われます。
(質問作成、翻訳:土居伸彰)


『海岸を吹く風 Wind Along the Coast』(2004) (C) Ivan Maximov

――夢は見ますか?もし見るなら、最近見た印象深い夢について教えてください。

イワン・マクシーモフ
大抵は見ないですね。(覚えていないです。)
覚えているのは、大抵現実的な夢です。
ここ20年くらいで一番変わった夢は(もうかなり前の夢ですが)、メカニズムもなんらかの力もなくなぜか飛んでいた夢ですね。

――あなたは物理を学んでいて、エンジニアとして働いていたこともあるそうですが、その経験はあなたのアニメーション作品に影響を与えていると思いますか。私があなたの作品のキャラクターを見て思うのは、あなたが重力感をとてもうまく表現しているということです。キャラクターたちはわたしたち同様に、重さを持っているように思えます。もしかしたらそれはあなたが物理学を知っているからなのかな、とも思ったりするのですが。

マクシーモフ
影響はあると思います。時間・空間、物理法則、因果関係のつながり、そういったものに私は敏感です。科学は私の哲学にも影響を与えていると思います。ですが技術的な進歩についていえば(進歩というもの自体に対してそうなのですが)、私は否定的な考えを持っています。私は無神論者であり、タオイストなのです。

――あなたの作品に出てくるキャラクターたちはみな2歳から5歳の子供の魂を持っているとのことですが、あなたはそれくらいの子供たちを観察するのは好きなのでしょうか。もしくは、ときには彼らのように振舞ってみたりしますか。芸術作品を作るためには時には子供のように振舞う必要があるとユーリー・ノルシュテインはかつて言っていました。

マクシーモフ
子どもたちを観察したり、耳をそばだてたりするのが好きですね。二つ目の質問についてですが、無邪気さや本性(をあらわにすること)というのはとても大事です。直接的な刺激になります。ナンセンスを愛しているのです。これも小さな子供たちの特徴ですね。

――最初にあなたの作品を観たとき、キャラクターたちは子供ではなくて動物なのだと思いました。動物は好きでしょうか。

マクシーモフ
長い鼻の象が好きですね。あと、ダックスフンド系の犬は耳とあの短い足が好きです。ああいったアンバランスさには、無防備でこっけいな、いとおしさを感じます。真剣な話をすると、私は自然がとても好きですが、現在のあまりに人間的な文明というのは好きではないです。その進歩はすべてを絶滅させてしまうのではないでしょうか……

――ときどきですが、私はあなたのキャラクターたちが人間であるように感じてしまいます。子供であるというだけではなく、大人も含めてです。最近の作品(『海岸を吹く風』"Rain Down from Above")には特にそれを感じます。最近の作品をみると、わたしたちには決して抵抗することのできない力があるのだ、ということを思わされてしまいます。自然の力、運命、時に政治的な力……そういった力はわたしたちを圧倒します。あなたの作品にはユーモア感がすごくありますが、そういう理由があるのでときにシリアスな気持ちにもさせられます。私は深読みしすぎでしょうか。シンプルにあなたの作品を楽しむべきなのでしょうか。

マクシーモフ
私の答えはこうです。ただ楽しんでください。
本当の芸術とは、魂や心のためのものなのであり、理性のためのものではないのです。

――あなたの作品のほとんどは、音楽を構造のバックボーンにしていますが、そのことはノーマン・マクラレンやオスカー・フィッシンガー、レン・ライといった抽象アニメーションを思い出させますし、同時に(特に初期の)ディズニーの作品も思い出させます。物語がなく、それでも素晴らしい作品群です。あなたの作品と同じように、喜びの気持ちを与えてくれます。こういったアニメーションについてはどう思われますか。好きでしょうか。

マクシーモフ
好きではあるのですが、それほどではありません。私はより凝った絵のものが好きなのです。そういう理由で、マクラレンはわたしには少し退屈です。 一方でディズニーは良い気晴らしにはなりますね。楽しませるというよりも。 しかしディズニーの作品は感動させるものが多く、そういう作品は私にとって大切なものです。 私の作品のジャンルはミュージック・クリップに近いこともありますが、ニュース映画、絵によるドキュメンタリーとでもいえるようなものに近いこともありますよ。

――わたしたちはつねに良いアニメーションを捜し求めています。あなたの好きなアニメーション作品を、クラシカルなもの、コンテンポラリーなもの両方教えてください。

マクシーモフ
『ジャングルブック』
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『バンビ』
 [→DVD「バンビ」[Amazon]収録]
『イエロー・サブマリン』(ジョージ・ダニング、ジャック・ストークス)
 [→DVD「イエロー・サブマリン」[Amazon]収録]
『話の話』(ユーリー・ノルシュテイン)
 [→DVD「ユーリ・ノルシュテイン作品集」[Amazon]収録]
『千と千尋の神隠し』(宮崎駿)
 [→DVD「千と千尋の神隠し」[Amazon]収録]
『くまのプーさん』(ヒョードル・ヒトルーク)
『犬が住んでいました』『アリの冒険』『マルティンコの奇跡』(エドゥアルド・ナザーロフ)
 [→DVD「ロシア・アニメーション傑作選集 vol.1」[Amazon]収録]
『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』(ニック・パーク)
 [→DVD「ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!」[Amazon]収録]
『岸辺のふたり』(マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット)
 [→DVD「岸辺のふたり」[Amazon]収録]
『年をとった鰐』(山村浩二)
 [→DVD「年をとった鰐&山村浩二セレクト・アニメーション収録」[Amazon]]
『ハッピーエンドの不幸なお話』(レジーナ・ペソア)
 [→DVD「ハッピーエンドの不幸なお話 その他短編」[Amazon]収録]
『クリスマス рождество』(ミハイル・アルダシン)
『世界の果てで』(コンスタンティン・ブロンジット)
 [→DVD「国際アートアニメーションインデックス〜広島国際アニメーションフィスティバル傑作選 vol.3」[Amazon]収録]
『ジハルカ жихарка』(オレグ・ウジノフ)[訳注:今年の広島のコンペに入っています]

――最後の質問です。あなたの次回作について教えてください。もう制作には取り掛かっていますでしょうか。もしそうなら、どのような作品になりそうか教えてください。

マクシーモフ
『ブタ鼻の二次的な可能性 The Additional Capability of the Snout』という作品を仕上げているところです。子豚、熊、ロバ、フクロウ、ウサギが登場する完全にナンセンスな話です。『くまのプーさん』を少し参照しています。 その次の作品は、『海岸を吹く風』、"Rain Down from Above"に続く作品です。今度は潮の満ち干きです……


イワン・マクシーモフIvan Maximov
1958年、モスクワ生まれ。物理学を学び、6年間にわたりロシアの宇宙科学研究所にエンジニアとして勤務。それと並行してイラストレーターとしても活動。1995年に「ヴァーチャル・スタジオ イワン・マクシーモフ」という個人スタジオを設立し、風刺画家やゲーム制作などの活動も行いながら、主にロシアの文化庁からの支援を受け、現在に至るまで精力的に作品を発表しつづけている。"Rain Down from Above"は2008年の広島国際アニメーション・フェスティバルにコンペインしています。これからどんどん注目の高まってくる作家であると思われます。(「ネット経由だろうが海賊版だろうがなんでもいいので作品を楽しんでほしい」と本人はおっしゃってますので、Youtubeにほとんど全部の作品があります、と普段は決して言わないことを言ってしまいます。)



『海岸を吹く風』(2004)


○フィルモグラフィー
1989 From Left to Right
1990 『5/4』5/4 (DVD「パイロット・フィルム アニメセレクション」[Amazon]収録)
1992 Bolero
1992 Provincial School
1993 N+2
1994 Libido of Benjamino
1996 The Strings
1997 2 Trams
2001 Lyuba (Video Clip)
2003 Slow Bistro
2004 Wind Along the Coast
  (イベント「Animations' works, Animations' selection」にて上映)
2004 The Spate
2005 Tonnellage
2007 Rain Down from Above
  (「第12回広島国際アニメーションフェスティバル コンペ初日」にて上映)


イワン・マクシーモフ公式ホームページ[作品視聴可能]

イワン・マクシーモフ インタビュー