リス・ロビンソン インタビュー
ピンプが言うところには......

 オタワ国際アニメーション・フェスティバルのフェスティバル・ディレクター、クリス・ロビンソンは、この度、国際交流基金の文化人招聘プログラムで初来日し、ヤマムラアニメーションを訪れ山村浩二と面談した。(今回の来日の成果は、日本のインディペンデント・アニメーションについての本として2010年に出版予定である。)その際、昨年出版された"The Animation Pimp"という本について少しだけ話をさせてもらうことができた。今回は、ロビンソン氏の許可を得て、その対話の様子を公開する。("The Animation Pimp"は、awn.com内で五年間にわたって連載されたアニメーションに関するコラムで、その型破りなスタイルは、連載当時さまざまな反応を引き起こした。)(土居伸彰)
(質問:土居伸彰、通訳:上田もとめ、取材協力:国際交流基金)

imp says...

――"The Animation Pimp"(以下ピンプ)という本は僕にとってとても重要な本です。僕は今、「もっとたくさんの人にアニメーションをみてほしい」という気持ちで、ネット上で文筆活動をしているのですけれども、ごく限られた人しか興味をもってくれていないというのが現状です。「もしかして、短篇アニメーションなんて誰にも必要とされていないのではないか」と思ってしまうこともあります。しかし、クリスさんの本を読んで、「アニメーションというのは人生に深くかかわるものでありうるんだ」ということを確認できて、それがすごく嬉しかったです。ニック・トーシュが前書きで、「この本はアニメーションについての本でもあるし、そうでない本でもある」と書いていて、とても的確だと思うんですけど……

ロビンソン
完璧な文章だったと思います。

――ピンプのスタイルは、アニメーションに興味をもっていない人にもアピールできると思います。アニメーションの観客を広げることができるのではないかと。そこで、普段アニメーションを観る人以外の、ピンプに対する反応がどのようなものかを知りたいです。

ロビンソン
私も知りたいですよ(笑)。とても親しい友達で、私がとても意見を尊重している人もこの本を気に入ってくれました。ライターズ・フェスティバルで朗読をする機会もありました。でも、それ以外にはフィードバックというものがないんです。その点ではがっかりしています。もちろん、5年間もコラムを書き、それをまとめたものですから、その時々には反応がありました。非常にはっきり意見を書いてくれていましたよ。

――本の裏表紙に、「これまでジャーナリズムに流通した文章の中で最悪だ」という匿名のコメントが載せられているわけですけれども(笑)。

ロビンソン
その発言は、animation nationというサイトから採ったものです。コラムの始まった頃には「最低だ」というコメントが多かったですね(笑)。でも、だんだんとピンプのキャラクターが理解されるにつれて、もっとポジティブな意見が多くなってきました。批判的な、視野の狭い人の意見をどうかわすかというのはもちろん考えなければいけないのですけれども、それなら逆に利用してやろうということで、本の裏表紙に使ったわけです。非常にがっかりしてしまうのは、アニメーションの世界の人たちがとても保守的で、ナイーブだということです。ピンプが混乱をもたらすようなものであったことにびっくりしました。ピンプは、70年代のゴンゾ・スタイルの音楽批評に影響を受けています。テリー・ギリアムの『ラスベガスをやっつけろ』でジョニー・デップが演じていた、ハンター・トンプソンのスタイルです。トンプソンは60-70年代に活躍した有名なジャーナリストで、ゴンゾ・スタイルで有名でした。ジャーナリズムというのは普通、客観的に物事を見ようとするのですけれども、そこからは少し外れ、トンプソンは自分の取材する対象に非常に深く入り込んでしまうのです。ジャック・ケルアックなどのビート世代にまで遡ることができるスタイルです。というわけで、非常に古くからのスタイルで書いたのに、アニメーション業界の人たちがとても驚いてしまったことに、逆に私が驚きました。

――日本では、短篇アニメーションに関しては客観的すぎる批評が多いように思われます。ただ、情報を伝えるだけといったような。面白いものが読みたいといつも思うのですが、そちらでも同じ状況なのでしょうか。

ロビンソン
実際、私は他の人のアニメーション評論というのは読まないんですよ(笑)。つまらないですから。科学的で味気ないものが多いです。今年出る予定のカナダのアニメーションについての本は、一部は旅行記のようなものですし、私の家族の話題も出てきます。その間に挟まれてインタビューがあるような感じです。アニメーション作家とのインタビューでも、作品の話をまったくしない場合もあります。人生について話すだけとか。

――本を通じて、あなたの人生についてはとてもたくさんのことを知ってしまっています(笑)。

ロビンソン
望もうと、望むまいとね(笑)。でも、「あなたはピンプに似ていない」と妻には言われますよ(笑)。

――怖い方だと思っていました。

ロビンソン
この本はリチャード・メルツァーに捧げられていますが、2003年にポートランドに彼に会いにいきました。彼の書き方もピンプと似たところがあって、個人的なことをたくさん書き、荒削りなので、私も彼のことを怖い人だと思っていました。大酒飲みで、ヘロインをやっていて、売春婦が家中にいて……というイメージです。でも、彼との思い出といえば、病気になった猫に点滴をしてあげたというものです(笑)。とても優しい、おとなしい人でした。
批評の話に戻れば、私が最初にアニメーションに関わったときには、情報を入手しようと思ったら作家に直接訊かなければならず、とてもフラストレーションが溜まりました。例えば、ピンプの前に、エストニア・アニメーションについての本を出したのですけれども、エストニア人はそういう本を書かないわけです。そういう状況です。評論家にしても、まともな人はいるのですが、いつもハリウッドの作品の話ばかりしています。

――フェスティバルでは有名な人が、一般の人にまったく知られていない状況というのは改善できると思いますか。

ロビンソン
私が"Unsung Heroes of Animation"で取り上げた作家はフェスティバルでは名の通った作家たちなので、「なぜunsung(讃えられていない)なのか」ということを憤慨している人もいます。でも、アニメーションの外の世界で自分たちが知られていると思うことはとてもナイーブです。アニメーション・コミュニティーの外では、トップの作家も知られていないわけです。ジョン・ラセターは誰か、と一般の人に訊いても、知らない人は多いですし。だから、知られていないというのは、運命だと思って諦めるしかないですよ(笑)。

――日本では、山村浩二さんが、「知られざるアニメーション」というブログをやっていて、唯一、ここがフェスティバルで高名な作家たちを取り上げているという状況です。

山村
すごく素晴らしい作家たちがいるのに、トップのアーティストが日本で誰にも知られていないという状況を目にしつづけてきて。日本のインディペンデントの作家でさえ、そういった人たちを知らないということもあります。僕みたいに海外の映画祭に行っていると、わかるのですけれども。とても歯がゆい思いをしています。

ロビンソン
芸術的なアニメーションというのは、非常に不思議な領域に属していると思うんですね。一般の人にとっては、芸術的すぎる。芸術家のコミュニティの人たちは、アニメーションを見下しているところがある。

山村
クリスさん自身は、アニメーションにどのように興味をもったのでしょうか。

ロビンソン
ライムンド・クルメですね。出発点はこのドイツの作家です。オタワのフェスティバルに就職したのは、最初は選定委員会のお目付役ですね。彼らが作品を観るあいだ、一緒に座って観ていました。そのときはアニメーションのことはまだ何も知りませんでした。ディズニーやバックス・バニーくらいしか(笑)。私は大学で映画を勉強していたのですが、そのときには、ベルイマンやゴダールを見せられて、理論やらなんやらでとても頭を使わされていました。クルメの作品("Crossroad")は白黒で、棒のような人間が出てくる6分間の作品だったのですけれども、そこにはゴダール、ベルイマン、ベケット、それらすべてがあると思いました。それに加え、仕事が必要だったのでやめるわけにはいかないという状況もあり……フェスティバル・ディレクターになったのは自分でも迂闊だったと思うんですが、ここまで付き合ったんだからまあいいか、と(笑)。フェスティバル・ディレクターになって、完全に商業的なものにすることも可能だったわけですよ。でも、短篇アニメーションには、本当に素晴らしく真摯でヒューマンなものがあると思いました。作家の方々ともフェスティバルで会うわけですが、エゴのない、本当に付き合いやすい人たちですし。

山村
フェスティバル・ディレクターという職業は成り立つのですか。作家よりも成り立ちにくい気がするのですが……

ロビンソン
現在、フェスティバルではフルタイムで雇われているのが4人です。私は、パート・タイムであることを選んでいます。妻のケリーも関わっていまして、それで生活することはできています。90年代後半には、フェスティバルの職員は私だけでしたが。1999年の終わり頃、この仕事は一人だけじゃできないと気付きまして、ちょうどそのとき妻が仕事を探していたので、新しいポストを作って、そこに就いてもらいました。彼女が実務をして、私は面白いことだけをやることにしています。いや、面白いのもときどきだけですが(笑)。実績のあるフェスティバルで働けば、仕事はできるんですが、人数はとても限られています。

2008年1月24日 ヤマムラアニメーションにて





アニメーションに関するクリス・ロビンソンの著作
"The Animation Pimp"[Amazon]
"Unsung Heroes of Animation"[Amazon]
"Between Genius and Utter Illiteracy: A Story of Estonian Animation"[Amazon]
"The Animation Pimp"については、いくつかの記事を翻訳して紹介する許可を頂けたので、後日アップします。"Unsung Heroes of Animation"については、イゴール・コヴァリョフライアン・ラーキンの記事を既に翻訳済みです。また、このインタビューに先立ち行われた山村浩二との対話についても、後日紹介する予定です。(土居伸彰)
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