ロック国際アニメーション映画祭2008 レポート
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日目(2008.9.22)


・ノルシュテインと再会
同部屋のニックと山村さんと朝食。ニックの奥さんはジャーナリストで、ポルトガルの映画祭にて山村さんと一緒に審査員をしたことがあり、そのときにニックとも知り合いになったとのこと。俺にとっては初めての出会いばかりが続いているが、山村さんに言わせれば、固定メンバーが世界中をぐるぐる回っているようなものなのだとか……
10時からサンクトペテルブルクで最も成功しているスタジオへの見学遠足。なのだが。映画祭中の遠足に参加するための支払いに並んでいたら10時半になってしまい(ロシア!)、もうバスはいない……どうすればいいんだろう、と途方に暮れていたところ、昨日の夜のバスツアーで一緒だったおじさんがいたので話しかけてみると、バスに乗り遅れた人たちで集まって地下鉄を使ってスタジオに向かうというのでついていくことに。
しばらく船の入り口で佇んでいると、ノルシュテインが出てきた。勇気を振り絞って「僕のこと覚えてますか?」と話しかけてみると、「ダー(はい)」と返答。舞い上がる。(再度確認しておきますが、ノルシュテインの10日間ワークショップに参加したのです。ロシア語で卒業論文を書かなければいけない学科の出身なので、『話の話』について書いたその論文を読んでもらったりしたことがあります。)「あなたに手紙を書いたのであとで渡します」と言って(「私に?」と微笑んでくれたので嬉しかった)とりあえず別れる。うわー……噂通り右手を怪我していているみたいで、包帯を巻いていた。久しぶりに会ったノルシュテインは達観の程度がさらに高まっていたような……透明感が増したというか。

・「スメシャーリキ・スタジオ」訪問
昨日日本語で話しかけてきてくれた初老の男性、初日のホテルで一緒だったカップル(あとから"Weiss"の作者とその彼女だったことがわかる)が加わって一緒に駅へと向かう。初老の男性が話しかけてきてくれたので日本の話などをする。
駅に着き、先導のおじさんが「5つ目の駅で乗り換えるので気をつけて」と言うので「ゴスチーヌイ・ドボール」と案内板に書いてある駅名をつぶやいてみたらおじさんがポカーンとした顔でこちらを見て「そうです」。ロシアの暗い地下鉄に乗っていると、おじさんが「なんでロシア語読めるの?」と興味津々に話しかけてきたので、昔ここでロシア語をちょっと勉強していたことを話す。おじさんとおじいさんはふたりともロスからやってきていて、そこでアニメーションの仕事をしていると言うので、もしや、と思い「クラスキー・クスポですか」と質問してみたら「昔はね」と言うので「コヴァリョフの作品がすごく好きなんですよ。特に『ミルク』は本当に素晴らしい」と軽い気持ちで返すとおじさんはまたしてもびっくりして黙ってしまう。おじいさんが言うには、このおじさんは『ミルク』のアニメーターをしていたのだそう。コヴァリョフと同じウクライナ出身で、コヴァリョフと同じようにモスクワのピロット・スタジオで働き、そしてコヴァリョフと同じように(時期は違うが)アメリカに渡ったらしい。日本人のティーンエイジャーにいきなり自分の参加した作品が好きだって言われれば確かにびっくりするよな。おじさんに名前を訊ねてみたけれども、地下鉄の轟音に掻き消されて聞こえないが、聞き直すのが失礼に思えてわかったふりをしてしまう。
駅から10分くらい歩いてスタジオに到着。スメシャーリキ・スタジオ。ロシア語で「愉快な 」という意味の「スメーシュヌイ」と「玉」という意味の「シャール」を組み合わせた造語で、まんまるの動物キャラクターが多数登場する子ども向け人気シリーズのタイトルをそのままスタジオの名前にしている。
スメシャーリキのポスター

『霧のなかのはりねずみ』のパロディー作品も

スメシャールキはロシア国産で初めて大ヒットしたテレビ向けアニメーション・シリーズらしく、確かに街の売店にはぬいぐるみやカレンダーが売られていたし、行き帰りに使ったアエロフロートの機内誌にもマンガが載っていた。こういう情報って、日本にいると絶対に入ってこない。建物およびその周辺の古び具合と対照的にスタジオの中はびっくりするくらいに綺麗で開放的。もうけてますねさては。
スタジオの外(ちょっと汚い)

スタジオの中(かなり綺麗)

会社についてのプレゼンやメイキング映像をみせられ、その後食堂のようなところでレセプション的な軽食。先にやってきているはずの山村さんの姿が見当たらない。もう帰ってしまったのだろうか。俺は人見知りゆえに酒が入らないと知らない人としゃべれないのでシャンパンを数杯飲む。しかしシャンパンのラベルにもスメシャーリキのキャラクターがべたべたと貼ってある。いいのだろうか。(ニックに言ったら「両親をとりこむのがまずは大事なんだよ」と返答。)
かるくレセプション

シャンパンに子ども向けキャラクター

・友達ができる
その後、近くにあるペトロパヴロフスク要塞までみんなで散歩。良い天気!

要塞の外で写真とってもらう

その途中で話しかけてきてくれたサハリン出身で今はモスクワに住んでいるというロシア人アニメーター、チョーマ(愛称)とその友達のベラルーシ人ユーリャ(愛称だけど名前も同じ)、エカテリンブルグ在住の作家オリガ(どこかで顔を見たことがあると思ったら、今年の広島のコンペ作家だった。"The Fox and the Mouth"。)と一緒に行動することにする。チョーマは宮崎駿と高畑勲を崇拝している「アニメ」オタクで、いろいろと質問してくるのだが、どう考えても彼の方が俺よりもいろいろとよく知っている。そういえば行きの飛行機ではヴィジュアル系オタクのイタリア人少女と隣の席になって話したが、明らかに彼女の方が日本のV系バンドについてよく知っている。こういう逆転現象はよく起こる。
要塞そばのネヴァ川の川岸は現地住民にとっても憩いの場らしく、楽しそうにくつろいでいるロシア人たちがたくさん。とても雰囲気が良い。しばらくひなたぼっこで幸せな時間。ビキニパンツ一丁で甲羅干しをしている退役軍人たちがいて、マルコム・サザランド"Tourist"の世界に紛れ込んでしまった気分になる。肌に質感が日本人と全然違う。彼の風刺を肌で感じた。

憩いの場所

チョーマ(右)、ユーリャ(中)、オリガ(左)

・開会式
街中を歩き回って17:30に「ドーム・キノ」(映画の家)という映画館に到着。そのまま開会式スタート。非常にキャラの立った司会のおじさんと立ち姿が異様にかっこ良い通訳のおばさんの進行で始まった開会式で印象に残ったのは、エドゥアールド・ナザーロフ。なんだか俺にとっては伝説上の人物であるような気がしていたので、その実際に存在していることに驚く。久里さんとキム兄を合体させたような風貌だった。ニックがサクソフォンで船の警笛の音の真似をしてぐるぐるまわって開会宣言。彼が音楽の一部を担当した、今年のアヌシーの長編部門グランプリ『Sita Sings the Blues』の上映。プログラムをまったく知らなかったので長編だとはわからず、いつ終わるんだろうという邪念ばかりが頭に入りあまりきちんと観れず。インドに単身赴任するアニメーターの夫を見送る女性の話と並行して、電子切り絵でインドの古代叙事詩ラーマーヤナからラーマーとシーターの恋物語が語られる。随所に1920年代にアメリカで活躍した女性ブルースシンガー、アネッタ・ハーンショーのラブソングも挿入されるというだいぶ実験的な構成。長編だが、フラッシュを用いて映像部分はほぼ全編一人で制作されてる。フィル・ムロイ『クリスティーズ』といい、これからはそういうかたちの長編アニメーションもたくさん出てくるのだろうな。"Sita"については、アイディアは面白いと思ったけど映画自体の出来はちょっといただけなかった。
開会式後、山村さんと合流。スタジオ見学ではなく市内観光に連れて行かれていたらしい。しかも昨日の夜と同じコースでうんざりだったらしい。
船に戻ると疲れを感じ、セレブレーション・ディナーまで足をマッサージしつつ休憩。途中でいつもとは違うおばさんのアナウンス。怒号のような声で「23時に出航しますからね!戻ってこないわよ!」

開会式会場「映画の家」(外壁工事中)

・出航!
21時に始まったセレブレーション・ディナーは素晴らしかった。チョーマらと一緒のテーブルに山村さんと座っていたら「審査員は上の階です」と外国人係の女性に山村さんが拉致され、周りをすべてロシア人(一部ベラルーシ人やハンガリー人)に囲まれることに。しかし無料かつ大量にふるまわれたウォッカのおかげでノー・プロブレム、ニェット・プロブレーム。ミハイル・アルダシンは背の高い気の良さそうな男(映画祭の最後の方になって『KJFG NO.5』のアレクセイ・アレクセイエフだと判明)とバカな写真ばかり撮っている。俺は隣に座ったロシア人の作曲家セリョージャ(みんな愛称しか名乗らないから本名がわからない)と下ネタばかり話した。(彼は自由恋愛を求めて毎年タイに行っているらしい。)
出航

23時、船の出航。金曜ロードショーのはじまりみたいな哀愁溢れるメロディーが流れるなか、船が岸を離れていく。みんな歌って踊って絶叫しまくっているので、俺もよくわからないままハミング的な絶叫で加わる。感動的なほどの盛り上がり。寒いけど余韻に浸ってしばらくデッキに残っていたら「雪でも降りそうに寒いね」とおじさんに話しかけられる。コンペに入った息子のかわりにテルアビブからやってきたらしい。ほんとにいろんなところからいろんな人が来ているのですね。息子さんのDVDをいただく。4階でスペシャルなディナーをとっているはずの山村さんを探すがいなかったので、部屋に一旦戻ってみるとベッドが呼ぶので寝転がってみたら気持ちよくなってそのまま寝た。しかし夜中に何度か目を覚ました。ニックは夜中にはノイズ・ミュージシャンになるのであった。前途多難。 3 >


クロック国際アニメーションフェスティバル2008 2日目 < 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 >